『明日のプランニング』伝わらない時代の伝わる方法とは?

伝える目的は「売り」ではない。伝えたい相手を喜ばせることだ。(「はじめに」より)

『明日のプランニング』(講談社現代新書)は、これまで『明日の広告』『明日のコミュニケーション』を著してきた「さとなお」こと佐藤尚之さんの「明日〜」シリーズの第三弾です。この本の副題は伝わらない時代の「伝わる」方法。ここでいう「伝える」とは、人から人へ直接伝えることではなくて、広告や宣伝、広報の人たちの中で使われる「広告」としての「伝える」ことを意味しています。カッコイイ言葉で言えば、マーケティング・コミュニケーションの本という位置づけです。

本書の構成を大きく三つに分けるとすると以下に分けられます。

  • 現在の世界がどれだけ「伝える仕事」に携わる人たちにとって大変な時代なのか?
  • ぼくらの伝えたい相手は今、どのようにして情報と接しているのか?
  • この厳しい時代に、どうやって伝えていけばいいのか?
Sponsored link

情報はすでに「砂の一粒」になっている

あなたは1ゼタバイト(ZB)という単位をご存知でしょうか。ぼくはこの本を読んで初めて知ったのだけれど、どのくらいの数値かというと「世界中の砂浜の砂の数」だそう。じゃあ、この1ゼタバイトって何を表しているのか。それは、2010年の1年間で、世界に流れた情報量を示しているのだそう。つまり今こうしてあなたが読んでいるこの本の書評は、世界中の砂浜の数の中から天文学的な確率で出会った一粒の情報だということです。

あなたが伝えたい商品の「存在」も、あなたの会社が苦労して開発したサービスの「存在」も、あなたが必死に作ったコンテンツの「存在」も、「世界中の砂浜の砂の一粒」なのだ。

そんな情報がとんでもなく溢れかえった時代では、それだけ「伝える仕事」は絶望的に困難になっているとも言っていい。だって、自分の丹精込めて発信しようとする情報が砂の一粒だとしたら、それを伝えたい相手に伝えることは「砂の一粒を見つけてもらう」ことと同じです。想像しただけで無理じゃないか、と。

砂一時代と砂一時代「以前」を生きる生活者

このような情報が砂の一粒と化してしまった現代を本書では「砂一時代」と呼んでいます。じゃあこの砂一時代には、どのようにして「伝える」仕事をしていけばいいんでしょうか。著者は、「砂一時代の人」と「砂一時代以前の人」とでプランニング(どのようにして商品の存在を伝え、買ってもらうようにするかの戦略)を切り分けることを提唱しています。

この両者の違いは「情報量の多寡」の格差で説明されます。「砂一時代の人」とは、若者などのネットリテラシーの高い人たちで日常的にネットを使い、大量の情報に接している人たちであるのに対して、「砂一時代以前の人」とは、あまりネットを活用せずテレビや新聞などのような旧来のメディアからしか情報に接していない人たちのことです。「今はもうみんながネットを使う時代だ!」と叫ばれているし、これを書いているぼく自身23歳の若者で、ネットをもはや空気のように使っていて、そんな「砂一時代以前の人」なんて多くないだろうと思う。しかし、著者のデータからのおおよその計算から国民の半分がいまだに「砂一時代以前の人」だというのです。この格差は現在進行中で広がりつつあり、だからこそこの2つを分けて「伝え方」を考えることが重要なのだそう。

オーガニックリーチでアプローチする

「砂一時代以前の人」はネットをあまり使っていない人たちなのだから、旧来のCMや新聞広告をはじめとした「マス」を狙ったコミュニケーションを続ければいい。だけれど問題なのは、「砂一時代の人」に向けたコミュニケーションです。彼らは日々、おびただしい数の情報に触れ、ちょっとやそっとの情報の伝え方では動いてくれない。そこで本書では、「オーガニックリーチを引き出すこと」を勧めています。

オーガニックリーチとは、友人知人からの本音の言葉、自然の言葉、心からの言葉を指しています。このオーガニックリーチの何がポイントかというと、情報にまみれ、ちょっとやそっとの情報では動かない人たちを動かすことができる点にあります。なぜなら、友人知人からの情報は、他のたくさんの情報よりも強い強度をもっているからです。例えば、「ネットでラーメン店が人気」だということを知るより、「あそこの店のラーメンすげえおいしかったよ!」とあなたの仲のいい友人が言ってきたほうがそのラーメン店に行ってみたいと思う。それはネットの情報よりも、友人知人の情報のほうが圧倒的に関心が高い情報だからです。

そのため、伝える仕事をする人にとってそのようなオーガニックリーチを引き出すことが重要になってくるのです。

今後、ファンから「オーガニックな言葉を引き出す力」こそがプランナーの大事な能力になっていくと思う。砂一時代以前のマスベースでは、情報は一方的かつ身勝手に押し付けても受け取ってもらえる。でも、砂一時代のファンベースは、ファンにオーガニックな言葉で伝えてもらうことが一番大切になっていくのである。(177ページ)

じゃあ、そのオーガニックリーチはどうやって引き出せばいいのか、については著書を読んでもらうとしてさいごに項目だけ書いておきましょう。

  1. 社員という「最強ファン」の共感を作る
  2. ファンをもてなし、特別扱いする
  3. 生活者との接点を見直す
  4. 商品自体を見直す。ファンと共創する。
  5. ファンを発掘し、活性化し、動員し、追跡する
  6. ファンと共に育つ。ファンを支援する。
  7. ファンとビジョンを分かち合う。

本書を読んでみて感じるのは、この本の著者が「伝える仕事」を楽しみ、誇りを持ち、素晴らしい仕事だと信じているという点でした。その自分のしている仕事に対する愛があるからこそ、厳しい広告業界の中の第一線で活躍できるのでしょう。広告・メディア業界の人はもちろんのこと、「伝える」仕事をする人にとって必見の本だと思います。興味ある人はぜひ読んでみてください。

トップへ戻る