映画業界についてちょっと本気で机上の空論並べてみた【映画業界の課題とこれから】

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先日、ぼくが通っている映画の専門学校(主に、宣伝や配給を学ぶ)の講義の半期分が終了し、丁度ひと段落となった。半年でやったこととは主に3つ。

①実際に業界で働いている講師の話を聞く座学

②宣伝計画を立案する実習

③宣伝にこだわらない映画を使ったビジネス企画の実習

まあ、宣伝計画では見事プレゼンしたグループの中で最優秀として認めていただいたし、ビジネス企画(自分のグループは投票形式)も2位として講評してもらって、充実していたかなーと思っている。ちなみにビジネス企画のほうはこんな感じ。ビジネスのプロからすると笑っちゃうぐらいの出来かもしれない。

ただ、映画の道への気持ちがこの半年で弱くなっていることを考えると、ここで学んだことは全く無駄になるんじゃないかという気持ちもある。でも、スティーブジョブズだって、昔受けたカリグラフィーの講義が数年後役立ったように、ここで学んだことも何かの役に立つだろうと楽観的に構えている自分がいる。

だから、とりあえずこの半年で映画業界を現場じゃなくて机上で学んできた集大成として業界についてのまとめをここに書いておこうと思う。これから映画業界を目指す就活生ぐらいには役立つんじゃないかな。

映画業界の現状分析

■映画興行

はじめに近年の映画業界を概観すると、業界の市場規模を示す全体の興行収入は2011年は1820億円、2012年は1952億円、2013年は1942億円と徐々にではあるが増えてきている。ただ、実は2010年は3Dで大成功だった『アバター』などの大ヒットもあり2207億円であり、右肩上がりという状況ではなく、映画業界はここ10年間で2000億円を超えたり超えなかったりで横ばい傾向と言っていい。

■映画人口

もう一つの指標となる映画人口(1年間で劇場への入場者数総計)も2011年は1億4473万人、2012年は1億5516万人、2013年は1億5589万人とこちらも増加はしているが、これまた10年単位で考えると1億4千〜6千で右往左往している様子。つまり日本に住む人は1年間に1本しか劇場で観ていないという現状はあまり変わっていない。

■映画の年間公開本数

このようにここ10年間で興行収入、映画人口においては大きな変化のない映画業界であるが、細かいところを見ると、その有様は大きく変わっている。特に顕著なのが次の2つの傾向だ。

一つは、1年間で日本で公開する映画の本数がここ数年で急激に増加していることである。2011年が799本、2012年が983本、2013年が1117本と、日本の映画歴史史上初の1000本超えとなる。この原因は、テクノロジーの発展で、より安価に映画を撮ることができるようになったことで金銭的に今まで映画が撮れなかった人たちが映画を作るようになったからと思われる。

■邦画と洋画のシェア

二つ目の傾向がいわゆる邦高洋低と呼ばれる市場を占める邦画と洋画のシェア率だ。ここ数年あまり変わっていないので、2013年だけあげると邦画:洋画=6:4のシェア率であり、約10年前の2002年が邦画:洋画=3:7ということを考えると邦画が好調となっている。これについては、『踊る大捜査線』『TRICK』『のだめカンタービレ』『アンフェア』最近では『SPEC』など、テレビと映画業界がタッグを組んで、ヒットしたドラマを映画化して、また大ヒットシリーズ化させるという黄金パターンを確立したことが邦画の逆転につながったことが原因として挙げられる。

参考:

過去興行収入上位作品 一般社団法人日本映画製作者連盟

テレビでの映画宣伝と興行収入:邦画VS洋画 | GEM Partners(ジェム パートナーズ)の映画マーケティングコラム

映画業界の課題

さて、次にこれからの興行収入または、映画人口を増やすために課題をあげていく。これに関しては挙げればキリがないような気がするので、大きなところを3つあげておく。

■視聴環境の変化

まず第一に、DVDや配信などの映画を劇場で視聴しなくてもいい環境が現代ではかなり整っているということである。これに関しては、誰しも異論はないと思う。町には「TSUTAYA」、「GEO」が安価でどこにでもあり、「Hulu」などの動画配信サービスが広がり、タブレットスマートフォンでの視聴環境も整っている。もはや映画は劇場で観るもの、というのは少数派であろう。最近では、4Kテレビなどもどんどん手頃になり、映画館だからこその贅沢な視聴環境も優位性を失ってきている。

■優秀な人材の不足

第二に、優秀な人材の不足。映画業界というのは、マーケットが狭い分、映画業界へで働く人も少ない。それが狭き門にもなっている現状だが、新卒採用をし、イチから育て、優秀な人材を育てる体力を持つ企業は両手で数えられるぐらいしかない。そのため、優秀なポテンシャルを持つ人材を取ることができず、情熱のあるバイトやインターン、縁故というごく少数の中から人を採用する。もちろん、やる気があるのと、仕事ができるできないは相関しない。その情熱を、しっかりと正しい方向に向けられれば可能性はあるが、先にも言ったように育てる余裕もノウハウも大抵の映画会社にはない。

■媒体の弱体化

第三に、映画宣伝の媒体自体の弱体化だ。これはどういうことかと言うと、映画というのは、基本的には映画が公開する前にどれだけ宣伝し、認知させ、映画館に足を運ばせる意欲を高めることができるかが勝負だ。そのため、かなりのお金を使って映画を新聞、雑誌、テレビで宣伝をし、認知を広げる。しかし、問題なのはそれらの媒体自体が弱体化していることで、具体的には新聞の発行部数は年々ゆるやかに減少しており、テレビでさえテレビ離れが叫ばれている現状で、それにより映画の認知もそれだけ減ってしまっている。その代わりWEBメディアというものがあるが、WEBの特性として自分から情報を得ようとしないと情報を見ることができない能動的なメディアであるため、結局はあまり力と入れて宣伝しなくてもいい映画ファンにのみ伝わるメディアとなっているため、普段あまり観ていない人に対して劇場へ赴かせるインセンティブとなりはしない。

参考:映画市場のトレンドはどう変わっているのか【GEM映画白書2014年】 | GEM Partners(ジェム パートナーズ)の映画マーケティングコラム

映画業界のこれから

以上のことを踏まえて、映画業界のこれからを考えていく。映画がこれからも進化していくにはどんな可能性があるのか考察してみる。

■映画館という”場所”の可能性

映画業界の最大の収益源はもちろん劇場収入だ。DVDの売上やレンタル、配信での売上はそれに比べると少ない。だからこそ、劇場収入を増やすことが映画業界の一番の課題である。だが、これだけネットが普及し、もはやどこでも映画を視聴できる環境では、「映画館に行く価値」を見出さなければ立ちゆかなくなるのは目に見えている。では、どんな価値を顧客に提供すればいいか。これに対する重要なキーワードが「体験」だ。パソコンやテレビでは得られない映像による体験を観客に与えること。それをきちんと提供できるかそれが命運を分けるのではないかと思う。じゃあ具体的にはどんなものか。その3つの可能性を探ってみる。

①映画館のアトラクション化『4DX』

「3D」が映画に進出したときはけっこう大きな出来事であったのに、なぜか「4DX」はあまり世間には浸透していない。4DXとは以下の動画を観てもらったほうがわかりやすいが、一言でまとめると「3Dという視覚に加え、椅子の動きや、ミスト、匂いなどで、映画を五感で体験できる上映形式」のことを言う。

4DX® 機能紹介 [公式] – YouTube

ぼくは『アメイジングスパイダーマン2』で初めてこの4DXを体感したのだが、想像以上の映画体験だった。例えるなら、「遊園地にあるアトラクションを2時間ずっと乗っている感覚」と言っていい。スパイダーマンの例で言ったら、おなじみ糸をビルにくっつけてスパイダーマンが空中浮遊しているシーンでは、見事に空中浮遊の体感を動く椅子が再現していて、スパイダーマンの感覚を体験することができた。この4DXをうまく利用すれば、映画館のアトラクション化進み、”映画を観に映画館に行くのではなく、遊園地に行くような気持ちで映画館に行く”人も現れるのではないか。

参考:

3Dを超えた!?話題の4DX®を体験してきました!@シネマサンシャイン平和島 | Tunagu.

②映画館のLIVE化『ODS』

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非映画デジタルコンテンツ / Other Digital Source

映画館で上映される映画以外のデジタル映像作品。音楽コンサートやライブ、スポーツや格闘技の試合・大会、オペラ、バレエ、演劇、歌舞伎、寄席、お笑いライブ、その他ステージイベントなど、様々な映像が生中継あるいは録画上映されている。

近年、映画館の映写設備のデジタル化が進み、映画以外の映像でもデジタルデータになっていれば容易に映写できるようにな環境が整ってきた。また、ブロードバンド通信の普及により遠隔地間で大容量のデータを送受信するのが安価になったため、空いた上映枠の有効活用や新たな顧客層の開拓を兼ね、映画以外のコンテンツを上映する動きが活発化している。

ODSとは 〔 非映画デジタルコンテンツ 〕 【 Other Digital Stuff 】 – 意味/解説/説明/定義 : IT用語辞典より

ODSとは、以上のように簡単に言うと、映画以外のコンテンツを映画館で上映するというもの。具体的な事例で言えば、ワールドカップのサッカー中継を流したり、AKBの総選挙のLIVEを映画館で流した例などがわかりやすい。このODSの価値はとにかく「実際にその場所には行けないけれど、そのLIVE感を体感できること」であろう。これにより、今までターゲットにできなかった人たちを映画館に呼び寄せることで、マーケットの拡大を狙える。これがどんどん広がれば、映画館という「場所の存在価値」が高まることが予想されるだろう。

③『ゼログラビティ』から見る3Dのポテンシャル

3D映画がはじまってもう数年が経とうとしているが、まだまだ3Dのポテンシャルを見事に発揮しているような映画が少ない。映画を3Dで観て、「これ3D料金じゃなくて良かった」と思う人は少なからずいることだろう。けれど、去年の年末『ゼログラビティ』という映画が公開された。アカデミー賞7冠を達成したこの映画は、見事に3Dを使って「宇宙空間という圧倒的な体験」ができるものだったため、3D映画の中で1番だと言う映画評論家も多い。2DやDVDでは、面白みがなくなってしまうような作品だ。こういうものであれば、「映画館に行く価値」は自ずと上がってくる。3Dで観ることができる映画館でないと楽しめない作品であれば、それを「体験」するため観客が来る。だからこそ、これからの映画作りは映画館だからこそポテンシャルを発揮できるようになる必要があるだろう。

以上、映画館の「体験」を高める3つの可能性を見てきた。この「体験」というものをこれからもきちんと劇場来場者に向かて価値を提供し続け、そしてその価値をブランディングできれば、ぼくは映画館の未来は明るいんじゃないかと思う。。

こうして書いてきたけど、映画好きとしてはそのような「体験」型映画ばかりの映画館にはなってほしくない。自分の欲求に従って、社会への問題意識として、芸術として作品を作っている映画監督たちがこの世界にはたくさんいる。そんな人たちの映画は時にナナメ上をいくものがあるけど、やっぱりそういうなんだか「映画らしい映画」を映画館で見たいと思うから。

でも、まずマーケットのニーズをとらえ、業界としてのボリュームが拡大していけば、そのような商業的にはちょっと…みたいな作品だって、作っていける。だからこそ、きちんと利益が出せるような映画を軸として、産業が発展し、映画らしい映画も認められるような社会を実現してほしい。

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